2015年には、「une lettre 一通の、詩。」と題して、フリーペーパーを発行しました。
旅するように詩を楽しもうというテーマで、 一枚の旅先の写真に一篇の詩をつけました。
オフセット印刷したものを、渋谷や西麻布のお店に置いてもらったり、セブンイレブンのネットプリントでも配信しました。
詩集や詩誌と違って、ふだん詩にはあまり触れる機会のないひとたちにも手に取ってもらえたようです。
その作品のいくつかを、ご紹介します。
パリ、16時55分着
さまざまな髪と肌のいろにまぎれて
すこし眠ったあと
冬の空港は
しずかな血液の匂いがした
宿泊の場所を決めずに
バスに揺られているあいだは
息が吸える気がした
遠ざかってゆく、のか
近づいてゆくのか
もう誰にもわからなくなっていたから
コートのポケットをさぐると
出発前の温かさが指に残っていた
温かい、と感じられることと
感じられないことは
どちらが幸福なのだろう
硬貨を数えてから
冬を越せないいきものを
あっけなく野に放つように
携帯電話の通話履歴をすべて消した
泣いたあとのように瞼が重い
けれど
さまざまな髪と肌の匂いにまぎれたまま
眠りつづけることはできなかった
バスは
橋を渡った
誰かの小声から漏れた
憎しみ、という単語が
川の暗い水が見えなくなるまで
窓ガラスに映っていた
「une lettre 一通の、詩」no.1（2015年4月24日発行）より。
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