2017年12月5日火曜日

詩書月評

今年は、現代詩人会の投稿欄の選考や、H氏賞の選考にも関わり、ひとの詩を読むという面では、とても学ぶことが多かった一年だった。


詩作の面でも、第三詩集『あのとき冬の子どもたち』を刊行したことでより交流も広がり、
とてもありがたい年になった。


来年は、個人誌を作ろうかな・・・と考えていたところ、
ありがたいことに、「現代詩手帖」の詩書月評のお話をいただき、2018年1月号から一年間、担当することになった。

既成の書き方を無自覚になぞったものや、心情吐露詩でもなく、
けれど、言葉の空虚な器を作ることにばかり惑溺しているものでもなく、
読むひとに、真新しい感覚の地平なり、戦慄を覚えるほどの言葉の深淵を感じさせてくれる詩集に一冊でも多く出会えたらと思う。


多くの詩集を読む時間を重ねることで、自分の詩作もきっと深まってゆく、という希望を持ちながら、進めてゆきたい。

2017年6月13日火曜日

水の季節に

今年の前半は、H氏賞や日本現代詩人会のホームページの投稿欄の選考にかかわっていたこともあり、気ままに机に向かうというよりは、課せられているものをこなすための体力と気力の持続を優先する、という少し緊張感のある時間が続いていた。


けれど、2月に第三詩集を出したおかげで、複数の詩誌や新聞などから声をかけていただき、その作品に集中しているうちに、書くことがまた自分のなかに自然と戻ってきたような気がしている。


机の前に座っていると、いつしか雨が降り出して、その水音が知らぬ間に、周りの土を潤し、新しい発芽を呼び込んできてくれたかのような、充実の時間。


わたしは、いつも詩を書くとき、遠い憧れのようなものを漠然と描いていて、そこに少しでも近づけたらという思いでことばを探している。


大好きな詩人の作品までの、絶望的な遠さ。
けれど、こつこつと書いているうちに、その目指す光までの遠い距離が、自分を導いてくれる勇気にも思えてくる。


詩集刊行のあとに書いたいくつかの詩も、そんな勇気のなかで出来上がったのかもしれない。


詩誌などへの掲載が落ち着いたら、今度は、個人誌でも作りたいなとも思っている。
今までとは違う書き方もしてみたいな、とぼんやりと、楽しく思いながら。











2017年5月15日月曜日

詩の投稿欄

去年の4月から今年の3月までの一年間、日本現代詩人会のホームページの詩投稿欄の選者を
務めた(ホームページでは、投稿第4期目の選評が公開されたところです)。


いま、生まれたばかりの作品をリアルタイムで読める、というのは面白い経験だった。
例えば深夜に投稿があると、ああ、こんな時間にも詩を書いているひとがいるんだな、と思い、
うれしくなった。


私自身、高校生の頃から投稿をぽつぽつとしていたが、社会人になってからは、詩を書くことがなかなかつかめない時期も長くあった。
それでも、ときどき投稿をしたときに、選んでくれた詩人がいたことで、
やっぱり続けてみよう、と思えた気がする。
(ちなみに、はじめて詩を投稿をして、活字になったのは高校2年生のとき。
児童文学などを特集していた「MOE」という雑誌で、川崎洋さんが詩の投稿の選者をされているのを知り、「櫂」のファンだったので試しに投稿したのだった)。
その初々しい投稿の経験からだいぶあとのことだが、
「ユリイカ」の投稿欄に約一年、集中的に投稿したことが、
その後の詩集刊行にもつながっていったとも思っているので、
詩を投稿することの決断や喜びや、ときには失望が、
それぞれの書き手にとっての詩を続けてゆくきっかけになってくれたら、とも祈っている。


ひとの詩を選ぶことは、自分自身の詩を選ぶことでもあると、つくづく感じた。
また、先日、同じく選者を務められた、野村喜和夫さんと高貝弘也さんにもお会いしたのだが、
すばらしい詩を書き続けられ、独自の世界を展開されているおふたりとご一緒できた、ということが、わたし自身の励みにもなった。


日本現代詩人会の詩投稿欄の、この4月からの選者は、
八木幹夫さん、杉本真維子さん、石田瑞穂さん。
ご興味のあるかたは、ぜひ投稿してみてはいかがでしょうか。
http://www.japan-poets-association.com/













2017年4月6日木曜日

各紙での…

先日、図書新聞にて、皆川勤さんが、拙詩集『あのとき冬の子どもたち』を取り上げてくださった、と書きましたが、その後もいくつかの新聞や詩誌で紹介していただきました。
ご紹介くださった媒体は、つぎのとおりです。




・共同通信、3月配信の、平田俊子さんの詩の月評「詩はいま」。
・3月21日(火)の神戸新聞。細見和之さんの詩集紹介記事。
・4月1日(土)の東京新聞夕刊。川口晴美さんの詩の月評。
・「現代詩手帖」2017年4月号。時里二郎さんの詩書月評。


それぞれに、深く、細やかな眼差しで、詩集のすみずみまでお読みくださり、
的確な言葉で丁寧に評してくださっています。


新聞や雑誌で取り上げていただくのも恐れ多いことなのですが、
お忙しいなか、詩集の感想を送ってくださるかたもたくさんいらして、
本当にありがたく、何度も読み返しては、感激しています。


拙い詩を書き始めたばかりのころは、
こんなふうに憧れの詩人のかたがたに自分の詩を読んでいただけるとは、
想像していませんでした。


詩集を作るのは勇気のいることですが、
思い切ってかたちにしてよかった、と思います。
そして、わたしもいつか、詩を始めたばかりのひとに、
こんなふうに、次の創作につながる励ましを渡すことができたらいいなあ、とも。




各紙や「現代詩手帖」の書評は、図書館などで、覗いていただけたら幸いです。



2017年3月22日水曜日

図書新聞

春の風のなかで、花びらが思いがけない柔らかさで開くのを、心待ちにして歩く。
この時期が好きだ。
訪れ、という言葉が、五感を通して触れられるくらいに、近くにまで寄ってきているような、夜の街や水辺のざわめき。
季節が確実に変わってゆくのを、心地よい風のなかで感じられるときがありがたい。


2月の寒さのなかで生まれた、拙詩集『あのとき冬の子どもたち』も、
少しずつ、さまざまな眼差しのもとで、温かさをいただいている。


3月18日発売の、図書新聞(3月25日号)でも、評論家の皆川勤さんが書評を書いてくださった。
こうして詩の試みが、作者の思いをこえて、他のかたの言葉によって広げられてゆく喜び。
この書評を貫く、繊細で深い眼差しから、力をいただいた気がしている。


書店や図書館などで見かけたら、ぜひ手に取ってみてください。





















『あのとき冬の子どもたち』は、七月堂さんのサイトから購入できます。
税込1296円。送料は無料です。

※Amazonにも、新品の在庫があります。
時々、高価な中古品が出品されているようですが、
新品の在庫がない場合は、
七月堂さんには在庫がありますので、七月堂さんからのご購入をおすすめします。

書店では、ジュンク堂池袋店、ジュンク堂吉祥寺店、新宿紀伊國屋書店、パルコブックセンター吉祥寺店に置いてあるようです。
ほかにも、各書店のサイトからも注文できます。

























2017年3月3日金曜日

雛流し

今日は雛祭り。
以前、雛祭りをモチーフにして詩を書いたことがあります。


第一詩集『水版画』の一番最初に載せた詩、「雛流し」がそうです。
この詩は、もう10年前、「ユリイカ」で松浦寿輝さんが投稿欄の選者をされていたときに、投稿した作品のひとつでもあり、わたしにとっては特別な一篇です。


詩を書くとき、なにか迷いや不安を感じたら、
この「雛流し」に何度も戻ってゆけばいい、そこからまた、と思っています。


雛祭りの日に、もういちど、ここに載せたいと思います。






雛流し



半島の端まで群生する
黄の花の柔らかな牢獄を進む
華やいだ罪人の目をした
人々の間に眠り
盲目の子が夢中で齧る
パンの白さに目覚めて

無人駅の線路を海鳥が横切る
鋭い十字の影は
遠い田園でわたしが閉じた
家系図のようにうつくしい
婚姻を結ばぬ女の唯一の願いは
ただ通過し続けること
言葉や体温をけして交わさずに
きつく折りたたまれた手紙のように
無数の水平線を
水面を照らす子蛇の軽さで
わたしはせめて
家の穢れをすべてのせて流される
それはそれはまばゆい人形(ヒトガタ)となり
幾人もの夫と離縁し続けるための
旅に出よう

ホームに不意に流れ込む潮に
かすかな音符のようにまじる
春魚の血の匂いは
桃の花に包まれた赤ん坊の
一番古い記憶の温み
わたしは今日も
まぼろしの産着に包まれ
名前さえも知らぬ駅を発っていく




※峯澤典子『水版画』(ふらんす堂)より。

2017年2月23日木曜日

冬のおとしもの

第三詩集『あのとき冬の子どもたち』を刊行してから、
ブログやツイッターなどで感想を書いていただいたり、
お手紙をいただくたびに、
さまざまな受け取り方に、うれしく、驚いている。


最初は自分の頭の中にしかなかったものが
詩として一冊にまとまり、
ひとが読める状態になり、
こうして、感想をいただくのはとても不思議なことだ。
忙しいなかでも、反応をかえしてくださる、その手間を考えると、
ほんとうにありがたい。


表紙のデザインがいい、と言ってくださるかたも多く、
わたし自身もとても気に入っているので、それもうれしい。


デザイナーの吉岡さんがさりげない遊びを入れてくれた部分がある。


本の裏をみると、カバーには、バーコードや出版社名が左上にあるが、
そのほかには、文字などは書かれていない。
でも、よ~く眺めると、あれ?中央に、ボールの影のような丸いかたちがうっすらと見える。


カバーをとって、本自体の裏表紙を見てみると、その正体がわかる。
七月堂さんのロゴマークの朝顔が、ぽっ、と宙に浮かんでいるのだ。


この朝顔のログマーク、カバーの場合は、背表紙の下の部分に入っている。


裏表紙のロゴマークが、カバーをかけたときに、うっすらと透けてみえたら、
雪の影みたいに見えるかな?という遊び。
この雪の影は、まるで冬のおとしもののようだ。


ちなみに、詩集自体の表紙の文字は、モノクロだけれど、
これも、カバーの文字が雪に映ったときの影のイメージだそう。
そして、表紙の次の色紙(見返し)は、
「雪が降りそうな夜から朝にかけての空の色」を思って選んだ、とのこと。
「里紙」という種類の紙のなかの、「水」と呼ばれる色。
オパールと墨を含んだ冬空の色にも見える。


ささやかなことも大切にしながら、
デザインしてくれたことが、こころに残っている。


ありがとう。



※上の写真は、カバーの裏。中央にうっすらと…。下の写真は、詩集の裏表紙。中央には
七月堂さんの朝顔が。










































『あのとき冬の子どもたち』は、七月堂さんのHPから購入できます。
http://www.shichigatsudo.co.jp/info.php?category=publication&id=anotokifuyunokodomotachi


※新宿の紀伊國屋書店、池袋のジュンク堂にも置いてあるようです。
※書店のサイトでは、紀伊國屋書店、LIBRO、ジュンク堂(honto)のサイトからも、それぞれ注文できるようです。















2017年2月5日日曜日

あのとき冬の子どもたち

新しい詩集を刊行しました。
『あのとき冬の子どもたち』(七月堂)です。


冬の旅から、春を通り、夏へとむかってゆく、
21篇を集めました。


今回は、エディトリアルデザイナーの吉岡寿子さんが、
カバーと表紙をデザインしてくれました。
「あのとき冬の子どもたち」という、詩集のタイトルを伝えただけで、
空から雪が降りてくるイメージで、と、文字を置いてくれました。


デザインも、紙も、自分の頭のなかのイメージどおりで、気に入っています。


七月堂のホームページから購入できます。


http://www.shichigatsudo.co.jp/info.php?category=publication&id=anotokifuyunokodomotachi



2017年1月27日金曜日

春の手前で

年が明けたばかりと思っているうちに、暦のうえではもうすぐ春。
今はちょうど冬の土用ということもあって、
どんどんと外に出て行くよりは、
暖かい部屋で窓を見上げながら、
コツコツと手紙を書いたり、古い持ち物を整理したり、というような、
準備の期間なのかなとも思う。


去年の秋くらいから、こうしよう、ああしよう、と
人の力もたくさん借りて考えてきたことも、
ちょうど立春くらいにはかたちになるのかなという
予感もあったりと。


はた目には静かだけれど、すこしずつ何かが
育つ時になるように願いながら。


少しだけ、お知らせを。
1月27日に発売された「ユリイカ」2月号に詩を載せています。


「窓」と「離陸」という詩。
どちらも「窓」のそばの眼差しの詩です。


http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3009