2019年8月30日金曜日

「これから詩を読み、書く人のための詩の教室」

東京、表参道のスパイラルスコレーで開催中の「これから詩を読み、書く人のための詩の教室」(思潮社共催)は、詩をこれから書いてみたいという方や、詩を書き始めてまもない方むけの詩の講座です(詩歴の長い方ももちろん歓迎いたします)。

この教室は昨年から始まった試みで、これまでに小池昌代さん、松下育男さん、川口晴美さん、井坂洋子さんが講師を務められ、7~9月の夏の講座は福間健二さんが担当されています。

そして、10月4日からの秋の講座を、私、峯澤典子が担当いたします。
10月4日(金)、10月30日(水)、11月8日(金)は、講義形式で、12月7日(土)は実作の講評です。
(現在、予約受付中です。1回ずつでも、4回通しでもお申込み可)

以下のスパイラルスコレーのサイトに、内容についての詳細が載っています。
スパイラルスコレーのサイトはこちら(←クリックするとページに移動します)

https://www.spiral.co.jp/topics/poetry_2019

自分がなぜ詩に興味を持ち、書き始めたのか。
そして、どのように読み、書いていこうとしているのか、など、自分自身の経験にも触れながら、おもに現在活躍中の詩人たちの優れた作品をご紹介したいと思っています。

例えば、美術や映画、写真、音楽などさまざまな表現方法があるなかで、なぜ、文章による創造を、しかも俳句でも短歌でも小説でもなく、詩を選ぶのか。
その答えは詩人の数ほどあるかと思いますが、この講座を通して、私自身、いろいろと発見できたらありがたいです。

何卒よろしくお願いいたします。

2019年8月21日水曜日

高階杞一 + 松下育男『空から帽子が降ってくる』について

金堀則夫さん編集・発行の詩誌『交野が原』87号に、高階杞一さんと松下育男さんの詩集『空から帽子が降ってくる』について書きました。
転載の許可をいただきましたので、わたしのブログにも、そのページの画像を載せておきます。

この詩集に収録された作品はすべて、高階さんと松下さんお二人による「共詩」。
「共詩」とは、二人で一つのまとまった詩を最初から最後まで共同で作り上げること。いわば「合作」ともいえるでしょうか。
この「共詩」、何行ずつ書くか、のきまりはなく、たとえ連の途中であっても、自分はここまで、と一人が決めれば、もう一人はそこから(嫌でも?)続けなければならないとのこと。
つまり、本書には、相手の出方によって思いがけない方向へと導かれていった、さまざまな言葉の展開と飛躍と彷徨の記録が詰まっています。

作者たち自身も終点が予測できない言葉の旅路を追ううちに、詩を読むことと書くことの弾むような楽しさと新鮮な面白さが、じわじわと読み手の胸に広がってゆく一冊。

この本の魅力が少しでも伝われば、と思いながら、書評を書きました。
ご興味のある方はぜひ、詩集を手に取ってみてください。



※『交野が原』87号に掲載。

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2019年8月20日火曜日

詩 「空蟬」


空蟬

裂かれる、までの憎しみもなく
ただ盛りの花を送るように
蟬の声の途切れを合図に
らくに剥がれていった、ひと夜だった

瞼の皮いちまいででも
夏の濃い闇から
隔たれていることに
身が救われた別れであり
そう信じなければ
幾度生まれ変わっても
分かつことのできぬ
ひとのかおりだった

はじめての逢引にまとった
肌身を
明けの重みにかるく脱ぎすて
空蟬
と呼ぶには
水を吸いすぎたレインコートが
まだ暗い歩道橋に浮かぶ

点滅し続ける信号を
永久に横切るわたしを
長いこと見送っていた
もうひとつの影絵もまた
朝霧で見えない






詩集『水版画』(2008年・ふらんす堂)より。
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2019年8月10日土曜日

『夏の航跡』を辿って…

7月に作った、小さな詩集『Sillage 夏の航跡』。

この一冊は、もともとは、7月に開催した詩のイベントのお客さまのために制作したもの。
ですが、ほかにもご購入を希望される方がいらしたので、通販サイト「BOOTH」でも販売しました(※完売しました)。
7篇のみの、ささやかな航跡ですが、たくさんの方にご購入いただき、ほんとうにうれしく思っております。
小さな言葉の雫が、誰かの胸にひそやかに、けれど、たしかに広がることを願うだけで、勇気が湧いてきます。

そして、3人の詩人が、ブログや詩のサイトでご紹介くださいました。

■詩が書けないとき、日常のなかで気持ちが泡立つ何かがあったとき、そっとその詩集を開きたくなる、大好きな詩人、岬多可子さん。
岬さんらしい繊細で温かいまなざしで、この小さな詩集を照らしてくださったことにとても感激しました。
「青闇色の」の記事はこちら(←クリックすると移動します)。

■そして、詩の魅力に柔軟に迫る、卓越した読み手である、瀬崎祐さんのブログ。
「瀬崎祐の本棚」の記事はこちら(←クリックすると移動します)。

「こういう作品を読むと、詩は理屈などではなく、余分なことは何も言わせない美しさがあればいいのだと思ってしまう」。
「このような形でまとめられたものとしてこの7編の作品を読むことができたのは、大変に嬉しいことだった」と書いてくださり、ありがたい気持ちでいっぱいです。

■もう一人の詩人、渡辺めぐみさんも、「詩客」というサイトの「今月の自由詩」というコーナーで、『Sillage 夏の航跡』のなかの作品「舟のなかで」を取り上げてくださいました。
渡辺めぐみさんによる、「詩客」「今月の自由詩」の記事はこちら

渡辺さんは、いつも濃やかに詩の細部まで読み取ってくださいます。
「生の厳しさと不穏さとジェンダーを超えた生命体としてのこの大宇宙へのぬかずくような拝礼感覚を感じさせる」。
「物欲を手放した身軽さが言葉の弾力を強めている」等々、自分では気づかない部分に触れてくださり、驚きました。

ツイッターでも、さまざまな感想をいただいています。
ブログやツイッターに書いていただいたことをこうしてお知らせするのは、少し照れ臭いのですが…ずうずうしく思われることを承知のうえで、書いてくださった方への感謝を表したくて、ご紹介しています。
詩集を読んだあと、それについて何か書こうとすることは意外と時間や手間がかかるもの。だからこそ、ありがとうございます、と、この場でお伝えできたらと思っています。

それに、一つの詩に対して、さまざまな受け取り方や読み方がある、ということも表せたら、という思いもあります。

少し落ち着いたら、自分が好きな詩集についても少しずつ、何か書いてみたいと思っています。
通りすがりの誰かに、こんなに素敵な詩がありますよ、と伝えられる場所を増やせたら…。

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先日、詩歴の長い、二人の詩人の対談を拝聴したのですが、長年、朗読嫌いかと思われていたIさんが、あまりに見事に朗読されたあと、もう一人の詩人Mさんに「え、Iさんって、朗読嫌いじゃなかったんですか?」と驚かれていました。
その問いかけに対するIさんの答えが、はっとするものでした。
「詩はほんとうにいいものなんだから、朗読でもなんでも、詩のよさをわかってもらうためには、何かしなくては」。

詩は書かれて終わり、なのではなく、誰かに読まれてはじめて、一つの作品になるのではないでしょうか。自分の作品を、新しい読み手のもとに、そして、ほんとうに必要としてくれる誰かにどうやって届けるのか…。詩人それぞれが、自分に適した方法を見つけられたら…と、Iさんの言葉を聞きながら、改めて感じました。