2019年12月28日土曜日

真新しいノートに

2019年ももうすぐ終わり。

最後の日に向かって、これまでの時間が注ぎ込まれ、さまざまな思いが新しい光として生まれ変わる。
一年の終わりには、いつもそんな気がしています。

今年は、ほんとうに素敵なご縁に恵まれた一年でした。
詩の世界で出会えた方々にも、心からお礼を申し上げます。
そして、詩を続ける活力と喜びをつねにもたらしてくれる、大好きな詩作品にも、最上の感謝を。

これから、真新しいノートの最初のページを開くように、新しい年を迎えたいと思います。

過去も、未来も宿した豊穣な時間として。
いま、この瞬間を大切に感じながら…。

一時的な口当たりの良さや新しさに惑わされず。
自分らしいやり方で。
変わらずに心震わせる言葉の在りかをまっすぐに見つめていけたらと。

みなさまも、素晴らしい新年をお迎えくださいませ。

2019年12月12日木曜日

「詩の教室」のこと

表参道、スパイラルスコレーでの「これから詩を読み、書く人のための詩の教室」(思潮社共催)。
12月7日に、第四回目が無事に終わりました。

内容を少し振り返ると…。
第一回目は、「わたしを見つめ、わたしを超える」と題して。
まず、①「詩の言葉とは?」、②「詩を書くとは? 詩的とは?」、③「詩の『はじまり=種』を育てる」という3つの切り口で、わたしが思う詩の言葉や詩作について、 そして「詩のはじまり=種」をどう生かし、開かせてゆくか、についてお話ししました。

そのあと、「日常にまつわる」作品として、辻征夫さん、池井昌樹さん、松下育男さん、岬多可子さん、高橋順子さん、黒田三郎の詩を紹介し、「わたし」の日常を題材にしながらも、それらがなぜ個人的な身辺雑記で終わることなく、書かれる対象の普遍性を感じさせる、深度と広がりのある作品になっているのか、を見ていきました。

第二回目は、「日常との境界にある言葉」と題して、第一回目に紹介した詩とはまた異なる、さまざまな境界線上、狭間にある作品を取り上げました。

まず、①「非日常の場所を舞台にして書かれた詩(旅の詩、異国の詩)」として、岡本啓さん、川田絢音さん、 石田瑞穂さんの作品を。
 次に、②「生と死の境界で書かれた詩」として、村上昭夫と会田綱雄の名作を。
そして、③「異世界、虚構の世界の物語を紡ぐ詩」として、時里二郎さんと入沢康夫さんの作品を紹介し、詩のさまざまな内容や形や書き方に触れました。

第三回目は、「わたしの惹かれる詩・詩の書き方」。
わたしの詩との出会いや投稿時代についてお話ししたあと、自分がずっと惹かれ続ける作品として、北原白秋の短歌と、 伊藤悠子さん、松浦寿輝さん、小池昌代さん、粕谷栄市さんの詩を紹介。

そのあとには、自分が詩を実際に書くときの題材の見つけ方や、言葉の広げ方、推敲についてお話ししました。

第四回目は、ご提出いただいた作品の講評です(31名御参加。25作品が提出されました)。
詩の多様性を表すかのような、さまざまな作品が集まりましたが、それぞれの作品の良さを探りながら読むうちに、詩を書くことのみずみずしい始まりに立ち会う面白さを感じました。

毎回、講座の終了後には、御質問を書いていただく紙をお配りしたのですが、多くの方が、温かなご感想や、興味深い御質問を書いてくださいました。
それらをきっかけとして、こちらも考えを少しずつ膨らませることができたと思っています。

四回の講座を通して、みなさん、ほんとうに熱心に、わたしの話を聞いてくださり、その表情から、詩に向かう真摯さ、熱っぽさが伝わってきました。

とくに四回目の講座は、三時間もあったにも関わらず、みなさん、とても真剣に話を聞いてくださって…。
ほんとうにありがたく、感激しました。

お仕事帰りのお疲れのところ(たぶん、おなかも空いているはずの時間に…)、御参加いただいたこと、感謝しております。

これまでも、詩の教室等で、受講生の作品を講評することは何度かしてきたのですが、こんなふうに、まるまる二時間、あるいは三時間にわたってたっぷりと、ひとりでずっと詩についてお話をする、というのは貴重な機会。

みなさんに向かってお話ししながら、じつは自分自身に問いかけるように、詩というものを改めて手探っていく…そんな、とても充実した時間が過ごせました。

御参加くださったみなさまに、改めて御礼を申し上げます。
ほんとうにありがとうございました。

また、この講座の講師に、とお声をかけてくださり、濃やかにサポートしてくださった、思潮社編集部の藤井さんと久保さんにも、心からお礼を申し上げます。

そして、教室に何度もお越しくださった、尊敬する詩人お二人にも、感謝しております。

ほんとうにありがとうございました。

2019年11月28日木曜日

『現代詩手帖』12月号「現代詩年鑑2020」

11月28日発売の「現代詩手帖」12月号。
特集は「現代詩年鑑2020」。
2019年に刊行された詩集について細かく、かつ広く知ることができる論考がいくつも載っています。
(昨年は一年間、「詩書月評」を担当させていただき、12月号には詩書展望を書きました。そのことを思い出しつつ、それぞれに力のこもった論考を興味深く読みました)

この号の「2019年代表詩選」に、拙作「紅玉の」も掲載されています。

今年7月に七月堂さんで詩のイベントを行った際に、7篇入りの小さな詩集(私家版の小冊子)『Sillage 夏の航跡』を作りました。
そのなかに入れた散文詩です。
「紅玉」(ルビー)は、昔から惹かれる石の一つ。
ここでは、自分が生まれる前からあるはずの、ある「紅玉」の記憶を辿るようにして書きました。

「現代詩年鑑」のアンケート「今年度の収穫」でも、この私家版の小さな作品集について何人かの方が触れてくださり、とてもありがたく、各コメントをうれしく拝読しました。

今年は、トークイベントや詩の教室など、人前でお話しする機会がたくさんありました。
保存することはできない、かけがえのない瞬間を通して、気づけたこと、学んだことも多く。

詩に興味のある方々に、直接、自分の言葉で伝えるという場も、とても貴重なものだと実感できました。
みなさんに向かって話しているうちに、私のほうがエネルギーをいただいているようで、とても楽しかったです。

来年も、いろんな文章を書きつつ、次の詩集のことも考え始めたいなと思っています。

いままでの詩集とは違った方向へと歩いてみたいな…と漠然と考えています。
本を読み、考え、想像し、書く時間自体を楽しみたいとも思っています。

詩の世界には、ほんとうにいろんな書き手がいて、さまざまな詩があります。
詩という創作の魅力は、書いている本人にも、これが詩だ、と言い切れないところだとも感じています。

私も、いまという時間や人の流れに惑わされず、心からいいと思えるものを、自分のペースで求めていけたらと思っています。
でも、こうでなくてはいけない、という頑なさや制限はもたずに、自由に。
霧の向こうから何かが見えてくる、その瞬間を待ちながら…。







※私家版の小冊子『Sillage 夏の航跡』は、通販サイトや七月堂さんの店頭でも販売しました。おかげさまで現在は完売しています。
お読みくださったみなさまへ、心より御礼を申し上げます。

2019年10月25日金曜日

「これから詩を読み、書く人のための詩の教室」これからの講座について

東京、表参道のスパイラルスコレーで開催中の「これから詩を読み、書く人のための詩の教室」(思潮社共催)は、詩をこれから書いてみたいという方や、詩を書き始めてまもない方むけの詩の講座です。

この教室は昨年から始まった試みで、これまでに小池昌代さん、松下育男さん、川口晴美さん、井坂洋子さん、福間健二さんが講師を務められました。

そして、10月4日からの秋の講座(全四回)を、私、峯澤典子が担当しています。
10月30日(水)、11月8日(金)は、講義形式で、第四回目の12月7日(土)は実作の講評です。

来週、10月30日(水)の第二回目の講座では、「日常との境界にある言葉」というテーマで、
①非日常の場所を舞台にして書かれた詩(旅の詩、異国の詩)
②生と死の境界で書かれた詩
③異世界、虚構の世界の物語を紡ぐ詩
を取り上げる予定です。

詩を書き始めたころには、自分の身辺や日常の出来事を題材にした詩を書かれる方も多いのかな、と想像しますが、詩の言葉の領域を広げるために、舞台も語り手も発想もさまざまに書いてみるのも面白いかと思います。

第二回目の講座では、岡本啓さん、川田絢音さん、石田瑞穂さんの旅の詩、村上昭夫と会田綱雄の生と死の狭間にある詩、そして、時里二郎さんと入沢康夫さんの異世界の物語を紡ぐ詩を紹介します。

11月8日(金)の第三回目は、まず、わたし自身の投稿時代のこと、なかなか詩を書けなかった時のことをお話ししたいと思います。それから、わたしが惹かれる詩人たち(粕谷栄市さん、松浦寿輝さん、小池昌代さん、伊藤悠子さんなど…)の作品のほか、わたし自身の詩を紹介し、具体的な発想や書き方についてお話しする予定です。
(この講座の一回目、二回目に登場するのも、わたしの好きな詩人たちですが…)

12月7日(土)の第四回目は、受講される方々の作品を一つひとつ講評する回です(この回のみ、土曜日の13時~16時まで。他の回より1時間長く3時間になります) 。

※現在、第四回目まで定員に達したためキャンセル待ちとなっています。
平日の夜や土曜日にも関わらず、多くの方にお申込みいただき、ほんとうに感謝しております。
ありがとうございます。

以下のスパイラルスコレーのサイトに、内容についての詳細が載っています。
スパイラルスコレーのサイトはこちら(←クリックするとページに移動します)

https://www.spiral.co.jp/topics/poetry_2019

よろしくお願いいたします。

2019年10月18日金曜日

詩 「祈る」


祈る

光がふいに差すことがある
望んだわけではないのだが

見舞いの病室の向かいで
洗濯物がはためいている
音を立てぬよう窓辺に寄り
色あせたシーツの
思うよりはきっと硬い繊維に
目で少しずつ、触れる
触れることと触れることの間に
ことん、こととん
遠い鉄橋を流れる貨物列車の音がする
からだのどこかにあるはずの
わたし、の荷箱は
つねに重すぎるか
軽すぎる
目覚めに水を注ぐとき
出がけに靴紐を結ぶとき
戒めや慰めのことばをもって
わたし自身をはかり直そうとするが
たましい、とひとが呼びすてる湿りけの縁に
ことばは
こすれながら浮き 沈み
とくにこんな日暮れには
肺なのか 喉元なのか
きゅ、と急に細くなる声の通り道に
あきらめが満ちてくる

こんなことはほかのひとにも
起きているのだろうか

見知らぬ背骨のかたちに
鈍く毛羽立った
窓越しのシーツに
思い切って わたし、を包みこむと
重さをまだよみきれない針が
ほんの少し光のほうへとゆれた
はじめての異国の市場で
泥のついた果実をためらいなく
量り売りの皿にどんどんとかさねたときの
新鮮な驚きを呼び起こしながら

からだの軽さにふいによろけ
目をあける
窓いちめんに広がる光は
背後で横たわるひとの寝息から
もれてきた祈りそのものだと
気づく






詩集『水版画』(2008年・ふらんす堂)より。

© 2019 Sillage 詩の航跡を追って。All rights reserved. 文章や写真の無断転載を禁じます。

2019年8月30日金曜日

「これから詩を読み、書く人のための詩の教室」

東京、表参道のスパイラルスコレーで開催中の「これから詩を読み、書く人のための詩の教室」(思潮社共催)は、詩をこれから書いてみたいという方や、詩を書き始めてまもない方むけの詩の講座です(詩歴の長い方ももちろん歓迎いたします)。

この教室は昨年から始まった試みで、これまでに小池昌代さん、松下育男さん、川口晴美さん、井坂洋子さんが講師を務められ、7~9月の夏の講座は福間健二さんが担当されています。

そして、10月4日からの秋の講座を、私、峯澤典子が担当いたします。
10月4日(金)、10月30日(水)、11月8日(金)は、講義形式で、12月7日(土)は実作の講評です。
(現在、予約受付中です。1回ずつでも、4回通しでもお申込み可)

以下のスパイラルスコレーのサイトに、内容についての詳細が載っています。
スパイラルスコレーのサイトはこちら(←クリックするとページに移動します)

https://www.spiral.co.jp/topics/poetry_2019

自分がなぜ詩に興味を持ち、書き始めたのか。
そして、どのように読み、書いていこうとしているのか、など、自分自身の経験にも触れながら、おもに現在活躍中の詩人たちの優れた作品をご紹介したいと思っています。

例えば、美術や映画、写真、音楽などさまざまな表現方法があるなかで、なぜ、文章による創造を、しかも俳句でも短歌でも小説でもなく、詩を選ぶのか。
その答えは詩人の数ほどあるかと思いますが、この講座を通して、私自身、いろいろと発見できたらありがたいです。

何卒よろしくお願いいたします。

2019年8月21日水曜日

高階杞一 + 松下育男『空から帽子が降ってくる』について

金堀則夫さん編集・発行の詩誌『交野が原』87号に、高階杞一さんと松下育男さんの詩集『空から帽子が降ってくる』について書きました。
転載の許可をいただきましたので、わたしのブログにも、そのページの画像を載せておきます。

この詩集に収録された作品はすべて、高階さんと松下さんお二人による「共詩」。
「共詩」とは、二人で一つのまとまった詩を最初から最後まで共同で作り上げること。いわば「合作」ともいえるでしょうか。
この「共詩」、何行ずつ書くか、のきまりはなく、たとえ連の途中であっても、自分はここまで、と一人が決めれば、もう一人はそこから(嫌でも?)続けなければならないとのこと。
つまり、本書には、相手の出方によって思いがけない方向へと導かれていった、さまざまな言葉の展開と飛躍と彷徨の記録が詰まっています。

作者たち自身も終点が予測できない言葉の旅路を追ううちに、詩を読むことと書くことの弾むような楽しさと新鮮な面白さが、じわじわと読み手の胸に広がってゆく一冊。

この本の魅力が少しでも伝われば、と思いながら、書評を書きました。
ご興味のある方はぜひ、詩集を手に取ってみてください。



※『交野が原』87号に掲載。

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2019年8月20日火曜日

詩 「空蟬」


空蟬

裂かれる、までの憎しみもなく
ただ盛りの花を送るように
蟬の声の途切れを合図に
らくに剥がれていった、ひと夜だった

瞼の皮いちまいででも
夏の濃い闇から
隔たれていることに
身が救われた別れであり
そう信じなければ
幾度生まれ変わっても
分かつことのできぬ
ひとのかおりだった

はじめての逢引にまとった
肌身を
明けの重みにかるく脱ぎすて
空蟬
と呼ぶには
水を吸いすぎたレインコートが
まだ暗い歩道橋に浮かぶ

点滅し続ける信号を
永久に横切るわたしを
長いこと見送っていた
もうひとつの影絵もまた
朝霧で見えない






詩集『水版画』(2008年・ふらんす堂)より。
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