2019年10月25日金曜日

「これから詩を読み、書く人のための詩の教室」これからの講座について

東京、表参道のスパイラルスコレーで開催中の「これから詩を読み、書く人のための詩の教室」(思潮社共催)は、詩をこれから書いてみたいという方や、詩を書き始めてまもない方むけの詩の講座です。

この教室は昨年から始まった試みで、これまでに小池昌代さん、松下育男さん、川口晴美さん、井坂洋子さん、福間健二さんが講師を務められました。

そして、10月4日からの秋の講座(全四回)を、私、峯澤典子が担当しています。
10月30日(水)、11月8日(金)は、講義形式で、第四回目の12月7日(土)は実作の講評です。

来週、10月30日(水)の第二回目の講座では、「日常との境界にある言葉」というテーマで、
①非日常の場所を舞台にして書かれた詩(旅の詩、異国の詩)
②生と死の境界で書かれた詩
③異世界、虚構の世界の物語を紡ぐ詩
を取り上げる予定です。

詩を書き始めたころには、自分の身辺や日常の出来事を題材にした詩を書かれる方も多いのかな、と想像しますが、詩の言葉の領域を広げるために、舞台も語り手も発想もさまざまに書いてみるのも面白いかと思います。

第二回目の講座では、岡本啓さん、川田絢音さん、石田瑞穂さんの旅の詩、村上昭夫と会田綱雄の生と死の狭間にある詩、そして、時里二郎さんと入沢康夫さんの異世界の物語を紡ぐ詩を紹介します。

11月8日(金)の第三回目は、まず、わたし自身の投稿時代のこと、なかなか詩を書けなかった時のことをお話ししたいと思います。それから、わたしが惹かれる詩人たち(粕谷栄市さん、松浦寿輝さん、小池昌代さん、伊藤悠子さんなど…)の作品のほか、わたし自身の詩を紹介し、具体的な発想や書き方についてお話しする予定です。
(この講座の一回目、二回目に登場するのも、わたしの好きな詩人たちですが…)

12月7日(土)の第四回目は、受講される方々の作品を一つひとつ講評する回です(この回のみ、土曜日の13時~16時まで。他の回より1時間長く3時間になります) 。

※現在、第四回目まで定員に達したためキャンセル待ちとなっています。
平日の夜や土曜日にも関わらず、多くの方にお申込みいただき、ほんとうに感謝しております。
ありがとうございます。

以下のスパイラルスコレーのサイトに、内容についての詳細が載っています。
スパイラルスコレーのサイトはこちら(←クリックするとページに移動します)

https://www.spiral.co.jp/topics/poetry_2019

よろしくお願いいたします。

2019年10月18日金曜日

詩 「祈る」


祈る

光がふいに差すことがある
望んだわけではないのだが

見舞いの病室の向かいで
洗濯物がはためいている
音を立てぬよう窓辺に寄り
色あせたシーツの
思うよりはきっと硬い繊維に
目で少しずつ、触れる
触れることと触れることの間に
ことん、こととん
遠い鉄橋を流れる貨物列車の音がする
からだのどこかにあるはずの
わたし、の荷箱は
つねに重すぎるか
軽すぎる
目覚めに水を注ぐとき
出がけに靴紐を結ぶとき
戒めや慰めのことばをもって
わたし自身をはかり直そうとするが
たましい、とひとが呼びすてる湿りけの縁に
ことばは
こすれながら浮き 沈み
とくにこんな日暮れには
肺なのか 喉元なのか
きゅ、と急に細くなる声の通り道に
あきらめが満ちてくる

こんなことはほかのひとにも
起きているのだろうか

見知らぬ背骨のかたちに
鈍く毛羽立った
窓越しのシーツに
思い切って わたし、を包みこむと
重さをまだよみきれない針が
ほんの少し光のほうへとゆれた
はじめての異国の市場で
泥のついた果実をためらいなく
量り売りの皿にどんどんとかさねたときの
新鮮な驚きを呼び起こしながら

からだの軽さにふいによろけ
目をあける
窓いちめんに広がる光は
背後で横たわるひとの寝息から
もれてきた祈りそのものだと
気づく






詩集『水版画』(2008年・ふらんす堂)より。

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