2019年3月16日土曜日

詩 「積雪」

積雪




目を とじると
水音が ちかづく
それは わたしの 部屋をつつむ
ゆきが とけ
鳥たちが 羽ばたく声

けれど 目を あけてしまえば
水音は やむ
窓も 森も つまさきも
いつまでも 凍ったまま
水鳥の翼のしたで うまれるはずの蕾も

とおくを 見るために
とおくへ ゆくために
目を もらったはずなのに
ふかく とじているときだけ
たましいは ゆきのうえをすべり
鳥の羽ばたきとともに
あそべるのだから

もうなにも
ふかく 見ることはない
と決めてしまえば
わたしは 
いつまでも うまれない蕾ほどの
からだの かるさを ふたたびもてるのだろうか

ほんとうは
はるの のはらの ばらの らしんばんを
もっていたことも
南へ とびたつ鳥のうたを うたえたことも
わすれてめざめる 朝だけが
このまちのうえに
音もなく ふりつもってゆく








※詩誌「交野が原」86号に掲載。